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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)9040号 判決 1967年4月22日

原告 高橋仙次郎

右訴訟代理人弁護士 川本赳夫

被告 川崎興機株式会社

右代表者清算人 我妻良作

右訴訟代理人弁護士 手代木隆吉

主文

一、本件訴訟は訴の取下があったものとみなされることにより終了した。

二、昭和四一年二月二八日になされた口頭弁論期日指定の申立以後に生じた訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一、本件訴訟は、昭和三八年一〇月二四日被告ほか四名を共同被告として訴が提起されたことに始まり、爾後口頭弁論が重ねられたが、昭和三九年一一月三〇日に行われた第一一回口頭弁論期日に原告と被告ほか二名の共同被告が出頭せず、その余の共同被告の訴訟代理人は出頭したものの弁論をしないで退廷し、その後期日指定の申立のないまま三ヶ月を経過したので、訴の取下があったものとみなされることにより終了したものとして処理された。以上のことは本件訴訟の経過上明らかである。

二、ところで原告は昭和四一年二月二八日次の理由によって口頭弁論期日指定の申立をした。

「1、原告は本件訴提起に当り、被告代表者として代表取締役渋谷寛治と誤って表示したので、本件訴状副本は同人宛に送達され、同人は被告代表者として昭和三八年一一月六日これを受領し、その後同人から訴訟委任を受けた弁護士手代木隆吉が被告訴訟代理人として訴訟追行行為をし、本件訴訟は前項のような経過を辿った。

2、しかるにその後原告の調査により、渋谷寛治はかつては被告の代表取締役であったが、昭和三七年七月五日にその地位を退き、同年一二月一〇日我妻良作が被告の代表取締役に就任し(同月一五日右退任および就任の旨登記)、翌昭和三八年三月八日被告は株主総会の決議により解散し、我妻良作がその清算人に就任した(同月二九日登記)という事実が判明した。

3、右の事実によると、原告が本件訴を提起した昭和三八年一〇月二四日当時既に渋谷寛治は被告の代表資格を有しなかったのであるから、前記のとおり本件訴状副本が同人によって受領されたからといって被告に対する適法な送達があったものといえないし、また同人の委任によってなされた手代木弁護士の訴訟行為も被告の適法な授権にもとずくものとはいえない。

4、これを要するに本件訴状副本は被告に適法に送達されておらず、原、被告間の訴訟法律関係が未だ成立していないものというほかないから、前記のように本件訴訟が訴の取下があったものとみなされて処理されたことは違法であり、従って被告に対して改めて訴状副本の適法な送達をするとともに口頭弁論期日の指定を求める。」

三、原告の右申立理由中1、2、の各事実は本件従前の訴訟記録および原告が右申立に当って提出した被告の東京法務局芝出張所登記官作成にかかる昭和四一年二月四日付閉鎖登記簿謄本、横浜地方法務局川崎支局登記官作成にかかる同年一月一九日付登記簿謄本の記載に照してこれを認めることができ、同理由中3、の所見も一応はそのとおりである。

四、しかしながら、真正の被告代表者である我妻良作は、改めて手代木弁護士に対して本件訴訟に関する訴訟行為一切を被告に代ってすることを委任する旨を記載した昭和四一年八月一〇日付訴訟委任状を当裁判所に提出した。このことには、渋谷寛治による前記訴状副本送達受領行為を追認することを当然の前提として、従前同人の委任にもとずき被告訴訟代理人としてなされた手代木弁護士の訴訟追行行為を全て追認する趣旨を含むものに外ならないと解せられる。そうすると本件従前の訴訟行為の瑕疵は右追認により遡って全て補正されたものというべきであるから、本件訴訟は、第一項記載の経過によって訴の取下があったとみなされることにより終了したものと解するのにもはやなんの妨げもない。

五、そこで右訴訟終了の旨を確認し、原告がした前記期日指定申立以後に生じた訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤安弘)

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